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Lost Child ロスト・チャイルド/ぼろを着た少年

アメリカ映画 (2017)

兵役を終えたばかりの、辛い過去をもつ女性と、父から虐待に近い扱いを受けてきた少年との不思議な関係を坦々と描いた優れた作品。ハリウッド的なキワモノ映画に染まった人が観ると、「なんだつまらない」で終わってしまうかもしれないが… この映画には、舞台となっているアメリカ中央部のオザーク高原で、実際に信じられている怪物や伝承を「背景」として提示し、森の中で見つかった「何も語ろうとしない」少年が、怪物なのか、そうでないのかと疑心暗鬼に揺れる女性の心を細やかに見せていく。女性の疑惑は、伝承を信じ込んでいるひなびた町の人々の反応によって加速される。そのタイミングが絶妙で、しかも、扇動的ではなくあくまで静かに緊張が高まる。少年は、ほとんど口をきかないが、表情の変化はそれをカバーして物語に微妙な色合いをつける。孤独に育った少年が希望を抱き、その希望が崩れ去る時の悲しさ。自ら、伝承の悪魔的存在だと思い込んでしまった時のあきらめと優しさ。この映画の主役はリーヴェン・ランビンが演じているのだが、物語をひっぱっているのは少年だ。演出も脚本もかなりよく練られている。

生まれ故郷を離れてから15年ぶりに故郷に帰ってきたファーン。戻ってきた理由は、9年間の兵役を終え、15年前に別れたきりの弟に詫びようと思ったから。しかし、偶然、父の死と重なり、それまで父が住んでいた小屋に臨時に住むことになる。森の中の一軒屋の上、近くには異常ともいえる人物も住んでいることが分かる。安全のため犬をもらい受けるが、すぐに逃げられてしまい、追っていった森の中で1人の少年と出会う。名前はシーソル。しかし、彼は、それ以上は、固く口を閉ざし何も言わない。しかし、家に連れられていくと、お礼に、近くに咲いていたポーポーの花を摘んで束にして渡す。このポーポーの花は、強力なアレルギー物質を発散するのだが、シーソルの一家には免疫があり、それが危険なものだとは知らない。一方、ファーンはこの花に対し、強いアレルギー反応を起こす。頭痛、食欲不振、不眠、白髪化などだ。しかし、シーソルが家に入ったのと、ポーポーの花束がテーブルに置かれたのが同時のため、誰も、病気が花のせいだとは気付かない。そのうちに、この地方で古くから伝わっている2つの伝承、ハウラーという猫科の怪獣と、“Tatterdemalion(ぼろを着た少年)” と呼ばれる怪物についての噂がファーンの耳に入って来る。特に、「ぼろを着た少年」は、シーソルの外見と合致していたし、「森に住んでいて、招じ入れられて人の家に入り込むと、その人の生命力を吸い取り(病気にし、髪も白くなり)、その人が死んだら若返って森に戻る」という伝承も、前半はシーソルそのもののように見えてくる。ファーンは病気が進み、イライラが増すと、シーソルへの疑いも濃くなる。そして、弟とのいさかいの場にシーソルが勇敢に割り込み、「恩人」のファーンを救った時、弟は シーソルの「男気」に負けて去って行くが、ファーンはそれを「シーソルが怪物だから逃げて行った」と誤解してしまう。そして、それまで預かってきたのを打ち切り、里親制度に任せてしまう。弟に再会し、「逃げた」理由を知り、自分の父がポーポー・アレルギーだったことも知らされたファーンは、自分のひどい思い間違いに気付き、シーソルの父親を捜そうとする。古老から聞いた場所に行ったファーンは、シーソルの父親が麻薬の過剰摂取で死亡しているのを見つけ、同時に、シーソルが鎖につながれて物置で住まわされていたことも知る。深い後悔と強い同情とでファーンはシーソルを養子にするが、近くの異常人物はファーンを怪物から救うのだと信じてシーソルを拉致し、森に捨ててしまう…

ランドン・エドワーズ(Landon Edwards)の出演作は、ショートフィルムと この映画の2本だけ。ほぼ同じ年齢で、10歳程度ということくらいしか分からない。受賞歴はないが、ある評には、受賞されて当然の素晴らし演技とあった。私も同意したい。ほぼ無表情、無口の状態から始まり、最後には、悲しく優しい感情を垣間見せる。ハリウッド子役とは一線を画した、ヨーロッパ映画的な名演だと思う。


あらすじ

26歳のファーン・シュリーヴスが、女性の「選抜徴兵」期間を終え、生まれ故郷のオザーク高原に戻って来る。アメリカ中央部のミズーリ、アーカンソーなど4州にまたがる12万平方キロの広大な森だ。ファーンは迷彩服(UCPの迷彩パターン/セージ・グリーン)のままバスに乗り、小さな町の、うら寂れた場所(踏み切りの手前)で降りる。予め連絡しておいたので、バス停の反対側には1台の車が待っていて、そこから年輩の女性が姿を見せる(1枚目の写真、矢印)。女性の名はフロリーン。「また、ここに戻ってくるなんて。何年ぶり? 15年?」と言うので、子供の時にいなくなったことになる。ファーンは、弟のビリーにどうしても会いたくて来たのだ。事前に調べても、役所はちゃんと教えてくれなかったので、改めて「どこにいるか知ってる?」と尋ねる。「あたしも長いこと会ってない」。そして、連れて行かれた先は、森の外れの小屋のような家(2枚目の写真)。ここは、ファーンの父親が亡くなるまで住んでいた家。食べ物の散らかりようから、死んで間もないことが分かる。ファーンは11歳までこの家で両親と弟と一緒に暮らしていた。だから、フロリーンの、「来客があると判ってない限り、暗くなったらドアを開けちゃダメよ」という注意は理解できた。しかし、ファーンが 銃を持っていても、「二度と使う気がない」と言うと、「じゃあ、犬を飼いなさい」と注意される。「森は 敬意を払えば守ってくれるけど、ここに住む連中の中にはルールが通じないのもいるからね」。翌日、ファーンが森の小径を歩いていて、掘っ立て小屋に近づいていくと、いきなり銃を持った男が現れる。「てめぇ、何の用だ?」(3枚目の写真)。「ビリー・シュリーヴスを捜してる」。「留置場でも覗くんだな。とっとと失せろ」。これが、フロリーンが言っていた危険な男フィッグ・カール。ファーンは、夕方になり、町唯一のバーに行く。バーテンダーが素人っぽいので、ファーンは、「あなた、バーテンダーらしくないわね。当ててみようか? 造り屋? 壊し屋?」。男の答えは意外だった。「俺は、人を助けてる。困ったり援助のいる人たちを」(4枚目の写真)。「1分あれば、何を必要としてるか分かるんだ」。「私、何を必要としてる?」。次のシーンでは、2人は車の中でキス。朝は、男の家のベッドで目を覚ます。ファーンは、酔った勢いでベンド・インしただけなので、すげなく別れる。この男の名はマイク。これで主要な大人の登場人物は、弟を除けば、すべて顔を見せたことになる。
   

ファーンは警察に行って弟のことを尋ねる。その時、22歳と言うので、4歳年下ということになる〔ファーンは、11歳で「一種の家出」をするが、その時、弟は6歳だった〕。警官はコンピュータを見ながら、「麻薬、暴行、盗難。今はいないが、すぐに戻ってくるでしょう」と答える。そして、訊かれて住所も教える。ファーンは、そこまで歩いて行く(1枚目の写真)。壊れた窓の跡から中を覗くと、天井が落ち、床には雑草も生え、とても住めるような状態ではない。ファーンは、そのまま森を抜けて父の家に向かう。すると、森の中で10歳くらいの少年が後ろ向きに立っているのが目に入る(2枚目の写真)。少年は、ファーンに気付くと逃げ去った。ファーンがそのまま川辺まで歩いていくと、そこにはボートが岸に乗り上げて置いてあった〔伏線〕。ファーンが父の家に戻ると、少し離れた所に青いビニールシートをかけた車が放置してある。それは、16年前、ファーンがこの町を出て行くきっかけになった車だった。ファーンの頭に中に、昔、車内で弟と言い争った時の言葉が蘇る。ただ、映画のこの段階では意味は分からない。姉:「行かないと」。弟:「ダメだよ。パパは待ってろと言ったじゃないか」。「行くわよ」。「ドア、閉めろよ。出てっちゃダメだ」。「助けを呼ぶのよ、ビリー」。「離れちゃダメだ」。「パパは戻らないわ。だから、一緒に行きましょ」。夜、ファーンがベッドで横になっていると、外で物音がする。カナヅチを手に持ってドアを開けると、そこにいたのはフィッグ・カール。「何なの?」。「てめぇは誰だ? シュリーヴスの親戚か?」(3枚目の写真)。「娘よ。何の用?」。「こいつを燃やして、町のお役に立つ」。「何バカ言ってるの?」。「悪魔をやっつけられるのは、火だけだ」。「しばらくここに住むから、燃やさないで欲しいわね」〔キチガイには、丁寧に〕
  

ファーンは、翌朝、フロリーンのアドバイスに従い、犬を飼うことにして、捨て犬の保管所を訪ねる(1枚目の写真)。担当の女性は変わり者。「目的は?」と訊き、「番犬」と答えると、「相手は、生者それとも死者〔From the living or the dead〕?」と訊く〔エラリー・クイーンに『生者と死者と』という作品があるが、原題は“The Quick and the Dead”。この女性の方が、余程オカルトっぽい〕。ファーンは、変だと思いながらも「生者」と答える。すると、女性はきゃんきゃん吠えている犬たちを黙らせ、「この女(ひと)を守れる犬。吠えて」と命じる。1匹の頼りなさそうな犬が弱々しく吠える。これで決まりだが、こんないい加減な決め方には恐れ入る。その夜、犬の役割はドアの外で見張ることなのに、甘えた声を出し、結局はファーンのベッドの端で寝る。これでは番犬としては無用の存在だ。早朝、フロリーンが、親切に作った料理を持ってやって来て、ドアを蹴る〔両手が鍋で塞がっている〕。フロリーン:「『大草原の小さな家』と同じじゃないけど」。2人は、食べながら話す。「弟は見つかった?」。「いいえ」。「見つけて欲しくないのかも」。「私がここにいるって知らないのよ」。「ここじゃ、口コミであっという間に広まるの」。ファーンは、近くに住んでいるキチガイ男について訊き、名前がフィッグ・カールだと知る(2枚目の写真)。趣味は空き家を燃やすこと。「危険なの?」。その時、ダメ犬が顔を見せる。一目で犬を見抜いたフロリーンは、「あんた、男と落ち着いたら?」と言うが、これがファーンの癇に障り、フロリーンがまだ食べている最中に追い出そうとする。フロリーンが去った後、家の中のゴミをドラム缶に入れていると、バカ犬が森に向かって走っていく(3枚目の写真、矢印)〔犬は二度と戻って来なかった〕
  

ファーンは犬を捜しに森に入って行くが、後ろから「ハロー」と声がかかる。それは、一昨日にチラと目にした少年だった(1枚目の写真)。「やぁ。こんなトコで何してるの?」。返事はない。「何て名前?」。「シーソル」(2枚目の写真)。「こっちに来ない?」。首を横に振る。「そっちに行っていい?」。今度は頷く。「シーソル、家族はどこなの?」。無言。「1人でここに来たの?」。無言。「お腹空いた? 一緒に来て、何か食べない?」。頷く。ファーンは手を差し出し、シーソルの手を握って家に連れて行く。途中で、フィッグ・カールの小屋の前を通ると、「おい、どこでそのガキ拾った?」と訊かれる(3枚目の写真)。ファーンは無視して通り過ぎる〔しかし、ファーンが少年を連れて行ったことは分かってしまう〕
  

家に連れて来られたシーソルは、「ここ、あなたの家?」と訊く。「パパのだったけど、いなくなったの」。「どこに?」。「死んだの」。「ハウラー〔Howler〕にやられたの?」。「ハウラーなんか、いないわよ」。「いるよ」。ハウラーとは、オザーク高原一帯で実際に信じられている未確認生物のこと。立って歩く巨大な猫科の怪物と思えばいい(https://exemplore.com/cryptids/The-Ozark-Howler-Mythical-Beast-or-Elaborate-Hoax)。「じゃあ、今は、あなたの家なんだね?」(1枚目の写真)。ファーンは、「長くいる気はないの」と短く答えると、森の中での質問をくり返す。「シーソル、家族はどこなの? 何が起きたの?」(2枚目の写真)「森には、どのくらいいたの? 家の場所は知ってるの?」。「家なんかないよ」(3枚目の写真)。
  

シーソルは家の外に出て、木に咲いている赤黒い花(ポーポー〔Pawpaw〕)を折り取る。家では、ファーンが携帯で話している。「そうよ、子供を見つけたの。連れに来てもらえない?」「明日?」「それまで、この子、どうしたらいいの?」「分かったわ」。そんな話が進んでいるとは知らないシーソルは、「僕を泊めてくれてありがとう」と言ってポーポーの花束を渡す(1枚目の写真、矢印)〔最大の伏線〕。シーソルは汚れていたのでシャワーを浴びさせたのだろうが、そのシーンはない。ファーンは、ベッドに座っているシーソルに、何とか着れそうなものを見つけて渡してやる。「ありがとう」。「お休み」。夜、寝ていると、ファーンが咳いている。お陰でよく眠れなかったのか、朝起きるのが遅く、シーソルに起こされる。彼は、「朝食、捕まえたよ」と言って、小鳥を2羽見せる(2枚目の写真)。「そんなの、どうしたらいいの?」。「見せてあげる」。外に出て行ったシーソルは、小鳥=山ウズラ(?)を薪割台の上に置き、斧で首を落とす(3枚目の写真、矢印)。後は、羽をむしれば、よく売っているウズラ肉になる。
  

シーソルは、それをフライパンでバター炒め。出来上がった山ウズラの丸焼きを慣れた手つきで食べる。ファーンは、食べるのは遠慮し、いろいろと話しかける。「学校には 行ったことあるの?」。「行きたいよ」。「字は読めるの?」。「いいえ〔No, ma'am〕」(1枚目の写真)。「あのね、今日、誰かが家に来ることになってるの」。「僕、連れてかれるの?」(2枚目の写真)。「いろいろ訊くんだと思うわ。どこから来て、両親は誰かとか。答えられる?」。「自分のことを話し過ぎるのは、よくない。トラブルのもとだよ。僕は、どのベリーが毒か知ってる。薪も割れる。あなた手助けもできる」。「私、ここには住まないのよ」。その後、ピックアップトラックに乗ってやって来たのは、バーで会って一夜を共にしたマイクだった。「これが、あなたの仕事? ソーシャルワーカー?」。「言ったろ。人を助けてるって」。そして、心配して戸口に出てきたシーソルに、「よう〔Howdy〕」と気さくに呼びかける。「森の中でどうやって1人で生きてたんだい?」。また、だんまり。マイクは、スマホでシーソルの写真を撮ろうとする(3枚目の写真、矢印)。「やめてください〔Prefer not to, sir〕」。それでも撮影し、こんな風に撮ったんだとスマホを渡す。「ちょっと中で話そう」。マイクとファーンは相談のため家に入って行く。ファーンが、「じゃあ、あの子にさよなら言わないと」と言い出すと、マイクは「今、あの子を連れてったら、どうなるか知ってるか?」と訊く。「一時的な里親でしょ。他に10人の子がいて、叫んだり、泣いたり。3日したら、新しい両親が決まる。新しい規則と罰も」。「経験があるような口ぶりだな」。「そうよ。11の時から18歳の誕生日まで」。「シーソルにも、そうなって欲しい?」。「いいこと、私がここにいるのは、変な子の世話をするためじゃなくて、弟を見つけるためなの」。しかし、マイクは粘る。恐らく最大の理由は、シーソルが敬語の “sir” や “ma'am” を口にすることから、野生児ではないと踏んだから。必ず、どこかに家族はいる。それを捜す間、一時的な里親でなくファーンに預かっていて欲しい。それが、ソーシャルワーカーとしての優しさだった。結局、マイクは、シーソルを置いて去って行く。
  

マイクが去った後、当然のことながらファーンは機嫌が悪い。イライラを押えようとベランダに出てタバコを吸い始める。すると、それを見たシーソルが、「あなた、タバコを吸うの?」と訊く(1枚目の写真)。「そう、吸うのよ」。「タバコ好きなの?」(2枚目の写真)。「そうよ」。「煙が体に入っていくと、やけどしないの?」〔暗に、喫煙を咎めているのか?〕。「少し 放っておいてくれない?」。それでも、シーソルが動かずにじっと見つめているので、気まずくなって踏み消す。食事の時間になり、シーソルは自分に出された皿は、舐めるように食べ尽くす(3枚目の写真)。一方のファーンは、全く手をつけていない。シーソルが皿を置くと、ファーンは自分の皿をシーソルの前に押しやる。「お腹空いてないの?」。「ひどく気分が悪いの」。「きっと幽霊のせいだよ。父ちゃんの服を燃やすといいよ。それでも効かなきゃ、ガラガラヘビを捕まえてくるから、ちょっぴり食べたらいい」。「幽霊なんか信じないわ」。一方、事務所に戻ったマイクは、シーソルの調査を開始する。しかし、少なくとも、「行方不明」のリストにはなかった。そこら辺の浮浪者にも訊いてみるが、スマホで撮った写真を見せようとすると、画像は残っていなかった。
  

翌日、フロリーンが車で迎えにくる。ファーンが、体調が悪いので医者に連れて行って欲しいと頼んだのだ。「乗せてくれてありがとう」。その時、フロリーンは初めてシーソルの存在を知る。「おやまあ、この若い素敵な紳士は誰?」。「シーソルよ」。「シーソル、苗字は? どこの子?」。「この子、自分のこと訊かれるの嫌がるの」。「犬を飼えと言ったら、育ち過ぎたネズミまがい。男にしたらと言ったら、60ポンド〔27キロ〕の子供なんだから」(1枚目の写真)。嫌味を言われても、乗せていってもらわないといけないので我慢する。連れて行かれた先は、到底「医院」には見えない、ただの普通の小さな家。「ここがそう?」。「白衣と学位の男がお望みなら、30マイル〔48キロ〕先よ」。ファーンはシーソルを連れて中に入って行く。壁には一面に「ハウラー」の想像図が貼ってある。推して知るべしの人間だ。普通の服装で現れた「医師」から症状を訊かれ、①ひどい頭痛、②不眠、③うっ血を訴える。「いつから始まったんだね?」。「一昨日の夜からです」。「変なものでも食べたとか?」。「いいえ」。「多分、ウイルス感染だろう。休めるかね?」。「いいえ、最近、小さな子を世話してますから」。「どこから連れて来たんだね?」。「森の中で見つけました」。「その子を家に入れた後で、具合が悪くなったのかね?」。「その夜です」。医者は、待合室にいるシーソルを見に行く。「両親は誰だい?」「どこから来たんだ?」。シーソルは警戒した顔で無言(2枚目の写真)。医師は、診察室に戻ると、「この地にはいろんな伝承が残っている。幾つかは嘘だが、ほとんどは本当だ。あんたは、あの少年を森に戻さないといけない。彼を見つけた場所に置いて来るんだ」(3枚目の写真)。「どういうことです?」。「薬では治らない病気がいくつかある」。そう言うと、医師は何かを処方箋に書いてファーンに渡す。そこには、“Tatterdemalion(ぼろを着た少年)” と書いてあった。
  

2人は、医師の帰りにフロリーンの家に寄る。シーソルが庭で犬と遊んでいる(1枚目の写真)。ファーンは、「“tatterdemalion” という言葉、聞いたことある?」と尋ねる。「古い言葉よ。昔、1人の小さな男の子が森に追放された。誰かが連れに来るまで戻れない。そこで、その子は、誰かを好きにならせる。そして、一旦家に入り込むと、誰かさんの健康や命を奪い続ける。伝承では、そうやって、ずっと若いままでいるとか」。「そんなこと信じるの?」。「ここには、山ほど伝承があるの。幾つかは本当だけど、ほとんどは嘘よ。伝承には理由がある。何人かの子供たちが山でいなくなり、大人たちが「ハウラー」を作り出したのね」。翌日、ファーンはシーソルを見つけた森に入って行く。そして、木の枝を寄せ集めて作った「仮住まい」を見つける(2枚目の写真)。中には1冊の「LIFE」誌が置いてあった。母親に抱かれた赤ちゃんの写真のページが破って大事そうにはさまれている。シーソルの「願望」、あるいは、「心の支え」なのだろう。「LIFE」誌は非常に古いもので、1960年の7月11号。後で、シーソルの父は50-55歳らしいことが分かるが、1960年にはまだ生まれてすらいない。シーソルの祖父のものなのか?〔最後まで真相は分からない〕。この「LIFE」誌には、郵送先のラベルが貼り付けてあった(3枚目の写真、矢印)。そこには、「825 Old Hickock Rd, West Plains〔ウェスト・プレーンズ〕, MO〔ミズーリ州〕」と印刷されていた。
  

家に戻ったファーンは、頭が痛くてぐったりしている。近くでシーソルがホウキで床を掃いているのも、感心な行為なのに、イライラの対象にしかならない(1枚目の写真)。シーソルが、うっかりイスを倒したのをきっかけにキレてしまい、「今すぐ、やめなさい」と叱る。自分から率先して掃除をしていた子に、それではあまりにひどいと反省したファーンは、「ゲームでもしない?」と呼び止める。「どんな?」。「誰かのことを思い浮かべるの。私は、それが誰だか当てる。イエスとノーだけで」。「いいよ」。「じゃあ、誰か 特別大切な人のことを考えて」。「考えたよ」。「男の子?」。ノー。「女の子?」。イエス。「小さな子?」。ノー。「ママ?」。イエス(2枚目の写真)。「名前は?」。トリックには引っかからない。「イエスかノーだって言ったよ」。「何て名前なの?」「どこにいるの?」。シーソルは席を立つ。ファーンは、「行かないで。ごまかさないで。いつまでも、そんなじゃダメ。ママが、どこにいるのか言いなさい!」。「ママは、赤ちゃんが産まれた時、死んだ! 2人とも死んだ!」(3枚目の写真)。この返事にファーンは、当然だが 動揺する。「どんなママだったの?」。「古い歌をいくつも歌ってくれた」。「なぜ、森に住んでたの?」。「言えない」。「なぜ?」。「あなたは、ハウラーを信じてないから」。「そうよ」。「僕は信じてる。ホントにいるんだ」。これだけ言うと、シーソルは背を向ける。
  

その夜、ファーンが鏡で自分の顔を見ていると、白髪があるのに気づく(1枚目の写真、矢印)。白髪は1本だけでなく、何本もある。ファーンは、気分直しに、バーに行くことにする。車はないので、森の外れの夜道を歩いて行ったことになる。ファーンがバーで何杯も酒を飲んでいると、初めて見る男が寄って来て、「俺と、外に出ないか?」と声をかける。「いいえ、私はここにいたいの」。すると、男は、いきなりファーンの髪をわしづかみにし、「立て!」と言いながら、強引に戸口の連れて行く。そして、戸口を開けると 外に放り出す。怒って去ろうとするファーンに向かって、男は、「何も、変わってないな、ジェネラ〔ファーンのファースト・ネーム〕!」と怒鳴る。ファーンは振り向くと、まさかといった顔で「ビリーなの?」と訊く。「家族の親睦会でもやるつもりで、ここに来たのかよ?」。「なぜ、そんなに怒るの?」。「あんなことしたくせに!」。「何したっての?」。「家族をバラバラにした!」。「違う。私、子供だったのよ」。「違う、クサレ姉貴だ!」。そう叫ぶと、再び姉を地面に押し倒す。「俺に構うな。さっさと来たトコに帰れ!」と言いながら何度も足蹴にする(2枚目の写真)。止めに入ったのは、マイク。拳銃を向けてビリーを立ち去らせる。そして、ファーンを車に乗せると家まで送って行く。車から降りたファーンは酔っ払ってまともに歩けないが、マイクの手助けは拒む(3枚目の写真)。
  

ファーンは、家には入れたが、ベッドまでは辿りつけず、ドアから入った所で倒れて寝てしまう。そして、朝が来て、シーソルが大きなコップに水を汲んできてファーンの頭からかける(1枚目の写真)〔何をしても起きなかった?〕。飛び起きたファーンに、今度は飲ませるよう水の入ったコップを床に置く。その間、無言〔シーソルは、こうした状況に慣れているのだろう〕。次のシーン。2人は揃って店に行く〔また、延々と歩いた?〕。「なぜ、大酒飲んだの?」。「気分を良くしようと」。「今日はどう? あんなに飲んじゃダメだよ」。ファーンは、シーソルに遊ぶものを買ってやることにする。そんなもの、もらったことのないシーソルは、「子供の時、どうやって遊んだの?」と訊く。ファーンはシャボン玉セットを買う。一旦家に帰った2人は、今度は森に行き、川まで降りて行く。流れのない淵(ふち)があり、真っ先にシーソルが飛び込む。ファーンも続いて飛び込む。2人とも服は着たままだ。2人で水を掛け合って遊ぶ(2枚目の写真)。仲の良さそうな雰囲気を感じたシーソルは、「あなたと、ずっと一緒にいたい」と言い出す(3枚目の写真)。しかし、ファーンの返事は期待外れだった。「無理よ」。「どうして?」。「もっと相応しい人がいるわ」。折角の水浴も、白けてしまう。
  

シーソルがシャボン玉で遊んでいると、マイクが、シーソル用の服を持ってやってくる。そして、「大丈夫かい?」と訊く〔昨夜は、ひどく酔っていた〕。ファーンは、送ってもらったお礼すら言わず、「彼の家族、まだ見つからないの?」と訊き返す。「この前、森に行った時、彼のねぐらを見つけたわ。そこに住んでたと思う」。「何か見つけたか?」。「すごく古い雑誌。郵送先は、“Old Hickock Road” になってた。聞いたことない? 地図で捜したけど載ってなかった」。「この郡には泥道が千本もある。世代が変われば名前も変わる」。マイクは、シーソルに、「シュリーヴスさんは、良くしてくれるかい?」と尋ねる。「イエス・サー」。「食べさせてもらってるようだな」。「イエス・サー。一緒に食事していったらどうですか?」(1枚目の写真)〔出すぎた発言にファーンはムッとする〕。「夕食へのご招待に聞こえるな」〔マイクは、まんざらでもない〕「辞退したらバチが当たる」。そして、3人での食事のシーン(2枚目の写真、矢印はポーポーの花)。マイクは、「なあ、シーソル、この前、君を撮った写真、ひょっとして消さなかったよな?」と訊く。シーソルの返事は、「体から離された像は危険なんだよ」(3枚目の写真)〔古い伝承〕
  

マイクを車まで送っていったファーンは、「誰もあの子を知らないなんて、あり?」と訊く。「出生証明書がなく、学校にも行ってない子は、よほど詳しく調べないと。降って湧いた訳じゃない〔Now he didn't come out of nowhere〕。写真について言ってたこと、聞いただろ?」。「ええ」。「老人だけが知る言い伝え。俺のガキの頃にも聞いたことがないほど、古い話だ」。ファーンは、医師やフロリーンが話したことが頭にあるので、「あの子、危険?」と心配になる。「変なこと言うのよ。森の中からハウラーとやらがやって来るとか」(1枚目の写真)。「オザークへ ようこそ」。「そうじゃない。あの子には助けが必要なの。医者とかセラピストとか。あと2日あげる。そしたら、あの子を連れてって」。それだけ行ってファーンが振り返ると、シーソルが戸口に立って茫然とした顔でファーンを見ている(2枚目の写真)。自分は、「追い出したくなる」ほど嫌われていることが分かったのだ。シーソルはベッドの置いてある部屋に行くと、シーツを喚きながら剥がす(3枚目の写真)。
  

そして、家から飛び出て行く。ファーンも後を追う。シーソルは、森の中で立ち止まる(1枚目の写真)。そして、振り返り、「どうして僕が要らないの?」と訊く。「そういう意味じゃないの」。「ずっと1人でいたいの?」。「その方が気楽だから」。「なぜ?」。「他人がどう思ってるか、気にする必要ないでしょ」。「僕が森に入って行ったら、二度と会えなくなる。それで いいんだね?」。「家族の人に、君が無事だって知って欲しいのよ」。「家族なんて、もういない。そう言ったじゃないか!」(2枚目の写真)。そう叫ぶと、シーソルは木に登る。「何するの? 危ないわよ!」。「行って欲しい?」。「君のことが、もっと訊きたいだけ」。「もう話した」。「もっと他のこと。幾つなの?」。「そんなの、何の関係があるのさ?」。「いいわ。降りなさい。戻りましょ」。「いる、それとも、行く… どっち?」(3枚目の写真)。「降りて」。「言って」。「お願い、いて」。シーソルは木を降りるが、決して嬉しい訳ではない。心が傷ついたことに変わりないからだ。
  

夜になり、ファーンがベランダでタバコを吸っていると、森の中で焚き火が見える。ひょっとして、シーソルの家族かもしれないと思ったファーンは、無謀にも焚き火に近づいていく。それは、フィッグ・カールだった。焚き火だけでなく、近くの枯れ木の「うろ」の中でも火を焚いている。「どうして火を焚いてるの?」。「この枯れ木には悪魔が棲んでる。週に一度焚くと、出てこれない」「死人どもはポーポーの木の周りに集るが、訳は分からん」。相手がこんな変人なのに、ファーンは、「“tatterdemalion” のこと、何か知ってる?」と訊く。「もし、お前さんが、奴を家に入れちまったら、すぐ奴の住処の森に追っ払わんとな」。「何を知ってるの?」。「奴は、手を取ってくれと頼んでお前さんの家に入り込む。1人じゃ森から出られんからな」(1枚目の写真)「そして、居つく。可愛いフリして。すると、お前さんは変わり始める」。「変わるって?」。「きれいな髪は灰色だ。病気になり、どんどん悪くなる」〔あまりにシーソルと似ているので、ファーンは心配になり始める〕「そして、いつかポックリ。すると、奴は森に戻って行く。お前さんの命の分だけ強くなってな。古い言い伝えだ。もし、親類じゃなかったら、誰も家に入れちゃぁいかん」。「“tatterdemalion” 見たことあるの?」。「オーストラリアだって見たことないが、ちゃんとあるだろ。証拠が欲しいか?」。「ええ」。フィッグ・カールは立ち上がると、ポケットから3本の釘を取り出す。「こいつを持ってって、戸口に三角の形に打て。悪魔も “tatterdemalion” も魔女も幽霊も、中には入れん」。


翌朝、2人が家の前の枯れ枝を片付けていると、ビリーがやってくるのが見える。ファーンはシーソルを遠ざけ、1人で弟と立ち向かう。ビリーは開口一番、「こんな家、ずっと前に誰かが燃やしちまえばよかったんだ」と言う(1枚目の写真)。ビリーの顔は、誰かに殴られて傷だらけ。ビリーがここに来た理由は、父親の銃を使って復讐するため。銃が嫌いなファーンは、渡すのを拒む。彼女が銃を嫌いになったのは、現役最後の日、銃で腹部を撃たれた若者(故郷に婚約者が待っている)が、救急ヘリで搬送中に目の前で死んだから。そして、彼女が故郷に戻ったのは、それを見て、どうしても弟に会いたくなったから。そのことを話すが、ビリーは、「簡単にやり直せるなんて思うなよ。すべてブチ壊したくせに。思い出させてやろうか? 9年の間どこにいやがった? 俺が ゴミ捨て場でウロついてる間」。ファーンは弟を抱こうとするが、逆に突き飛ばされる。それを見たシーソルが、「その女(ひと)に触るな!」と叫ぶ。「何だとチビ助、お前に何ができる?」。シーソルは、走って全力でぶつかり、「痛いだろ」と言う。そして、立ち上がったファーンを、体で庇う(2枚目の写真)。ビリー:「お前の子か?」。「森で見つけたの。みなしごよ」。「なんで、そんなクズ女を庇うんだ?」。「この女(ひと)が必要だから」。ビリーは、それを聞くと、シーソルを畏(おそ)れるように去って行く。
 

ファーンはケガした手の傷の手当をフロリーンに受けている。その時、ファーンは、「ビリーは、シーソル見て逃げ出したの」と話す〔シーソルのことを怖れている感じ〕。そんなファーンを、戸口に立ったシーソルが見ている(1枚目の写真)。フロリーンは、弟のことなど忘れろとアドバイスする。翌朝、ファーンが目を覚ますと、シーソルが変なものを額に押し付けている(2枚目の写真、矢印の卵形のもの)。「何なのよ、それ?」。ファーンはシーソルを疑っているので、言い方もキツい。「何なの?!」。そして、シーソルの手から取り上げる。「なぜ、私に押し付けたの? いったい何なの?」。「狂い石〔madstone〕だよ」(3枚目の写真)〔鹿の胃の中に溜まる毛だるまや腎石。これを傷口に当てると治るという昔の民間療法〕。「狂い石」という名前を知らなければ、「狂わせる石」に思えてしまう。だから、ファーンは、「私を傷つける気だったのね?」と詰問する。シーソルは、それには答えず、「返してよ、特別なものなんだ」と反論。怒ったファーンは、シーソルの手に届かない場所に置く。
  

ファーンは、シーソルが “tatterdemalion” かもしれないと思い、フィッグ・カールに言われたことを実行する。戸口のドア上部の木枠に、渡された釘3本を三角形に打ったのだ(1枚目の写真、矢印/2枚目の写真)。そして、こんなことがされているとは知らずにシャボン玉で遊んでいたシーソルに、「シーソル、お願いがあるの。中に行って、水をコップ一杯持って来てちょうだい」と頼む。「喉、渇いたの?」。「ひどくね」。本来なら、遊んでいる子を呼びつけてまで汲みに行かせず、自分で飲みに行けばいいのだが、シーソルは素直に取りに行く。しかし、戸口の前まで行き、三角の釘が目に入ると立ち止まる。ファーン:「どうかしたの?」。「誰が釘を打ったの? 誰なの?!」。「私よ」。怒ったシーソルは、「なんで、クソッタレ釘をドアに打ったんだよ?!」と言いながらファーンに殴りかかる。ファーンも負けていない。「君が何者か知りたかったからよ! 髪が灰色になったの、気付かないとでも思ったの?!」(3枚目の写真)「病気に気付かないとでも? 君は何なのよ?」。シーソルはファーンの手を振り切ると、「あんなこと、するなんて!」と叫ぶ。2人の仲は、完全に決裂した。
  

シーソルは家の前で、1人離れて座っている〔釘があるので、家には入れない〕。そこに、マイクのピックアップトラックが到着(1枚目の写真)。家の中に入ったマイクとファーンが話し合っている。「それでいいんだな?」。「ええ」。マイクは、ボケで変なことを口走る伯父を例にあげ、“tatterdemalion” が如何にバカげているか説得する。ファーンは、「これを使ったのよ」と言って「狂い石」を見せる。「寝てる私の顔に押し付けたの。これも、彼がやってることの証拠よ」。「何も知らないんだな。これは鹿の胃の内膜で時々見つかるが、とてもレアな物だ。山の人々は、癒しの力があると言ってる」「まあいい。君は怖がり、逃げ道を探してるんだから」。「あなたこそ、彼をここに置いておくべきじゃなかったのよ」。「君とあの子の間につながりがあると思ったからさ」。「間違いだったわね。早く連れてって」。マイクは、背を向けて座っているシーソルに何事かを告げる。立ち上がったシーソルは、振り返ると、ファーンを何ともいえない顔で見る(2枚目の写真)〔心の中で泣いている?」〕。ピックアップトラックが着いた先は、1人幾らの給付金で大勢の孤児の面倒を自宅で見ている貧しい女性の家だった(3枚目の写真)。
  

ファーンは、ビリーに さよならだけは言っておこうと、翌日ビリーの居場所を訊き出して会いに行く。ここで、ファーンは、「あの夜」のことを初めて口にする。映画の冒頭近くで放置してあった車の中を覗いた時に「蘇った言葉」の、事情背景だ。「あの夜、何があったか覚えてないの? 私たちドライブしてた。泥道だった。どこかは覚えてない。そしたら車がエンコした。パパは、『助けを呼びに行ってくる。いいか、中で待ってろ。動くんじゃないぞ。車を離れるなよ』と言って出て行った。それっきり、待っても、待っても、戻って来なかった。それから、ママが気を失った。私は、助けを呼びに行くことに決めた。あなたは、パパを喜ばせるのが好きだった、何でも言われた通りにしてた。だけど、私はあなたも一緒に連れて行こうとした。だけど、てこでも動こうとしなかった」。そこで、ファーンは1人で呼びに行き、そのまま二度と戻らなかった。姉が去った後、車内では、気を失っていた母が目覚め、痙攣と嘔吐を始め、ビリーに助けを求めたが、6歳の少年には何も出来ず、恐らく、母は、そのまま世を去った(?)〔この場面、説明が曖昧なのでよく分からない。なぜ、父は4人で車で出かけたのか? なぜ父は戻って来なかったのか? なぜ母の具合が悪くなったのか? そして、最大の疑問は、なぜファーンは戻らなかったのか? この映画の焦点は、「シーソルが “tatterdemalion” か否か」にあるため、細部の詰めが甘いのは仕方がないのかもしれない。このシーンの目的も、実は2人の過去ではない。その後の台詞を引き出すための「前置き」でしかない〕。ファーンは、自分は町を出て行くからと言って、家の鍵を渡そうとする。「あの子はどうなる?」。「正体が分かったの〔I know what he was〕」。「それって、何なんだ?」。「何よ、しらばっくれて。正体を見抜いて逃げ出したじゃないの」。「あの子から逃げたんじゃない。あの子が俺の中の何かを揺さぶり、それから逃げ出したんだ」。「彼は、“tatterdemalion” なのよ」。「何をバカな。そんなの、ここいらのアホどもが、俺みたいな子を放っぽり出すために作り出したヨタ話だ」。「私、彼がウチに来た日から病気になったのよ。髪の毛も白くなったし」。「俺は、時々、親爺を訪れてた。いつも、この時期を嫌ってたな。ポーポーの花が咲くから。アレルギーがひどい。『こいつが息をできなくさせる』と言ってた」(1枚目の写真、矢印はポーポーの花)。ファーンは、自分の浅はかな間違いに気付く。そして、家に戻ると、テーブルに置いてあったポーポーの花の入った花瓶をつかむと(2枚目の写真、矢印)、戸口から投げ捨てる。一方、シーソルは預けられた里親の家で、四面楚歌になっていた。他の孤児たちからは無視され(3枚目の写真)、里親からは、「お前のことで噂が立ってるよ。部屋に入ってるんだ」と、他の孤児との接触を禁じられる。
  

ファーンは、さらなる情報を求め、店の前に座っていたかなりの年の老人に話しかける。「すみません。店の人に訊いたら、あなたはこの辺りに長くお住まいだとか」。そして、“Old Hickock Rd” のことを尋ねる(1枚目の写真)。「久しく耳にしなかったな」。「どこにあるかご存知?」。「まあな。行くのは大変じゃぞ。川を渡らんといかん」。ファーンは、最初に少年を見かけた時、岸に乗り上げてあったボートを思い出し、そこに行ってみる(2枚目の写真)〔シーソルは、このボートで川を渡った〕。ボートを少し漕ぐと、対岸に舟を寄せられそうな場所が見つかる。木の陰に倒れていた標識には、“Old Hickock Rd” と手で彫ってあった。ファーンは、そのまま小径を辿ると、急に場所が開け、壊れかけた一群のバラックのへの入口には、「立入り禁止」の立て札が(3枚目の写真)。
  

ファーンが「立入り禁止」を無視して入って行くと、その先には4本の有刺鉄線が行く手を塞ぎ、中央の柱には、木で組んだ三角の木枠がぶら下げてあり、その3つの角に釘が打ってある。ファーンは有刺鉄線の支柱を倒して中に踏み込む。最初にあったものは、壁が傾いた小屋。その軒にも釘付き三角形がぶら下がる。異様な光景だ。完全な廃屋もある。ファーンはトタン板で三角の屋根をかけた物置に目を留める。金網の付いた「ドア」を開けて中を覗くと、そこには、「LIFE」誌が3冊床に放置されている。ファーンが森で見つけたシーソルの「仮住まい」の中にあった1冊は、ここから持ち出したものだろう。一番上の1冊は1947年3月18号。シーソルの「仮住まい」のものよりさらに13年も古い。そこでも、破り取って大事に保管されていたのは、母親と子供の写真。ファーンはさらに恐ろしいものを発見する。雑誌のすぐ横に置いてあった鉄の枷(かせ)とそれに繋がる長い鎖だ(1枚目の写真、矢印は鎖)。シーソルは、この鎖につながれ、古い雑誌の愛情溢れる写真を見て、時を過していたのであろう。ファーンは、そこを出ると、唯一、まともな形で残っている「家」に向かう。「ハロー」と声をかけるが、返事がない。そのまま中に入った途端、異臭が鼻をつく。スタンドには電気が付いている。テーブルの上には空になった酒ビンが山ほど。ファーンは、カフスの部分で口を押えながら奥のドアに近づき、そこを明けると驚愕した表情に変わる(2枚目の写真)。ファーン慌てて逃げ出すが、戸口から飛び出して改めて振り返ると、戸口の前の木の桟には三角の板が打ち付けられ、その板に3本の釘が三角状に打ってあった(3枚目の写真)。ファーンはすぐ警察に連絡し、その警官が無線で話す言葉から、中に50~55くらいの男性が麻薬の過剰摂取で死亡していたことが分かる。
  

すべてを悟ったファーンは、マイクの家に直行する。そして、いきなり「シーソル・フィルモントよ」と話しかける。「じゃあ、家族が分かったんだな?」。「私、サイテーの間違いしちゃった。あの子、取り戻せない? お願い」(1枚目の写真)。マイクはさっそく手続きを取り〔状況は示されないが、ファーンにシーソルの親権を与えるというもの〕、里親に書類を渡す。欲のつっぱった里親が、「2日分の給付金は払ってもらうよ」と言うので、親権はすぐ認められたことになる。ファーンは、シーソルが「隔離」されている部屋に入って行く。そして、「シーソル」と声をかけるが、シーソルはマットレスにうな垂れて座ったまま顔を上げようともしない。ファーンは、シーソルの目の前に座りこみ、「ごめんなさい。あなた、これで私を助けようとしてくれたのね」と言いながら、持参した「狂い石」を見せる(2枚目の写真、矢印)。シーソルは、その石を自分の手に取る。そして、ファーンは、「シーソル・フィルモント」と呼びかける。その言葉で、シーソルは初めて顔を上げる。「なんで知ってるの?」。「あなたの家を見つけたの。あなたが、どんな風にされていたかも分かったわ」。シーソルは父を援護する。「罰して当然だったんだ」。「そんなことない」。「稼業のこと口にしたから、1週間 森に追放された」。「そんなの間違ってる」。「もし、逃げ出したまま、何をされたかしゃべったら、ハウラーが来るって。だから、僕、ハウラーに連れてかれる」。「私が、行かせない」。「父ちゃんが僕を鎖でしばった時、森の中から遠吠えが聞こえた。ハウラーは誰にも止められない」(3枚目の写真)。シーソルの恐怖を少しでもやわらげようと、ファーンは彼を抱きしめる。「これからは、私があなたを守る。いいわね?」〔興を削ぐようだが、ここに大きな疑問が1つある。なぜ、シーソルは、三角の釘を見て、ファーンの家に入れなかったのか? シーソルの家で、三角の釘が多用されているのを見ると、これはシーソルの父がハウラーなどの魔除けに使ったものだと分かる。シーソルとは無縁のものなのに、なぜシーソルは入れなかったのか? 怖い父の家にあったものなので、嫌うかも知れないが、中に入れないというのは無理がある。ファーンに 「シーソル=“tatterdemalion”」 だと確信させるための脚本上のトリックだとしか思えない〕
  

次のシーン。場面は再び川向こうのシーソルの生まれ育った悲惨な家。父が死に、母はずっと前に死んでいるので、もう住むものはいない。ファーンは家に火を点け、シーソルにとって忌まわしき存在だったすべてを焼き尽くす(1・2枚目の写真)。その夜、マイクはファーンの家を訪れ、フタオビチドリ〔killdeer〕を例にとり、母鳥が卵を守るため、いかに自己犠牲の行動に出るかを話す。そして、「誰にでも、そんな本能があるんだ。あとは、それを呼び覚ますだけ」(3枚目の写真)〔マイクとファーンは将来結婚するかも? そして2人でシーソルを愛しんで育てる…〕
  

数日後(?)。ファーンの家に、マイクとフロリーンがいる。ファーンが卵をこね、お菓子を作るのを嬉しそうにシーソルが手伝っている。そして、場面は、町で一番大きな建物に変わる。そこでは、町中の人が「持ち寄りパーティー」に参加している。その会場に、フロリーンを先頭に4人が現れる(1枚目の写真、矢印はフロリーンの料理とファーンのパイ)。ファーンとマイクとシーソルは、好きなものを皿に取って来て、1つのテーブルに座り、食べ始める。しかし、人々の視線が何となくおかしい。シーソルはみんなが自分を見る視線の中に敵意を感じる(2・3枚目の写真)。「僕、嫌われてるみたい」。「そんなことないわ。もう、ここの一員だもの」。「もう、出て行きたい」。「そんな必要ないわ」。でも、居心地が悪いと感じたシーソルは席を立つ。ファーンも後に続く。
  

その夜、ファーンは、シーソルの「助けて!」の叫び声で目が覚める。急いでシーソルの部屋に駆けつけると、窓ガラスが割られ、シーソルの姿はなかった。森の中から「助けて!」の声が聞こえる。ハウラーに連れていかれたのだろうか? ファーンは父の机の引出しから銃を取り出す。一方の森の中。シーソルをさらっていったのは、ハウラーではなく、半キチガイのフィッグ・カールだった(1枚目の写真)。シーソルが「放してよ!」と頼んでも、「貴様が何物か知ってるぞ。戻って来て、彼女を殺す気だな」と言う〔町の住民はシーソルを “tatterdemalion” じゃないかと敬遠したが、フィッグ・カールは確信犯なので実力行使に出た〕。森の中に捜しに入ったファーンは、焚き火まで戻ったフィッグ・カールに、「シーソルはどこ?」と詰問する。「前に警告してやったろ。俺に、感謝ぐらい…」。「あの子に何したのよ、このろくでなし!」。「お前、悪魔に取り憑かれたな」。ファーンは、海兵隊仕込みで、この「ろくでなし」を地面に押し倒すと、上から跨り、銃を顔に付きつける。「どこなの!! いますぐ言わないと、頭を吹き飛ばしてやる!!」。「奴がいるべき森の奥に放り出してきた」(2枚目の写真)。「どこ!?」。「東。あっちだ」。それを聞いたファーンは、「シーソル!」と叫びながら走る。幸い方向は逸れていなくて、行く手にシーソルが現れる(3枚目の写真)。「大丈夫? もう安全よ。ケガした?」。「僕、戻れないんだ。父ちゃんは、僕が母ちゃんを殺したって言った。里親のトコでは、僕が何物かって、全員が信じたんだ〔“tatterdemalion” だと信じた〕。だから、ホントなんだ」。「違うわ」。「まだ病気?」。「もう病気じゃないわ。みんな、ただの『怖いお話』なの」。「僕を、悪魔だと思ってたよね。他の人もみんなそうなんだ。母ちゃんも父ちゃんも死んだ。きっと、ぼくの何かがホントに悪いんだ。だから、僕、ここからずっと遠くに行くよ。あなたを安全にしないといけないから」(3枚目の写真)。
  

シーソルが、急に、「ハウラーだ! 逃げて! 奴が欲しがってるのは僕だけだ!」と叫ぶ。ファーンは、「私にも見えるわ」と嘘をつき、「やっつけてやる。いい? そこにいなさい」と言うと、銃を出し、架空のハウラー目がけて立て続けに撃つ(1枚目の写真)。これで2人の心は繋がった。2人は同じものが見え、そしてファーンがそれを銃で追い払う。「もう大丈夫。あいつは逃げたわ。永久によ。もう怯えなくていいの」(2枚目の写真)。「あなたは、もう私のもの。愛してるわ」。その言葉を聞いたシーソルはファーンに抱きつく。ファーンは全身でシーソンを抱きしめる(3枚目の写真)。最高のエンディングだ〔2人は、どうなるのであろう? 町の住民に染み付いた偏見はそんなに簡単には消えない。ファーンは、元々、弟に詫びに来たのが唯一の目的だったので、2人で町を出て新しい生活を始めるのがベストであろう。その時、マイクがどのように絡むのかは分からない〕
  

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